天鵞絨色のエトセトラ ~Velvet-colored Etosetra~

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課題レポートより頑張れている気がします。

さいがき流 架空地名の作り方とこじつけ方

写真とかないです!突貫工事だしめんどくさかったので!

 

 

お疲れ様です。さいがきです。私の繋がっているオタクの中には数人、架空鉄道界隈で知り合ったオタクがいます。もう知り合ってから結構経ちますが、我々がやっていたのは「現実の世界にあったらいいな、という路線を作っていく」架空鉄道でした。

一方で、「0から自分の世界を構築していく」架空鉄道をやっている人も多くいます。

どういうことかと言うと、「地名を自分で考えるか否か」ということです。現実世界に線路を敷いていけば、現実の地名を使ったり、実際にある駅を乗換駅にしたり、現実の建物由来の駅名をつけたりできますが、完全架空にはそれがない。全て自分で地名を作って行かなくてはならず、「北○○駅」や「新○○駅」「○○市駅」の○○の部分ですら自分で考えなくてはなりません。これって絶対いずれネタ切れする時が来るんですよね。やったことある人なら分かると思いますけど。これを解消しよう、ネタ切れが来ないようにしよう、というのが今回です。普通に適当な漢字を並べたり、知り合いや有名人の苗字をパクったりしても結構なレパートリーはゲットできますが、まあせっかくなら色々なパターンがあった方が面白いでしょう?そういうのを色々だらだら書いていこうと思います。ただし先に言っておきますが、私は基本的に「辿った歴史や文化はほぼ日本」「確かに日本だけどなんか日本じゃない国」の世界で完全架空鉄道をする、いわば「1から世界を作る」クチでしたので、「独自文化・独自の言語を採用する」世界、いわば「0から世界を作る」のは知りません。そこを念頭に読んでくださいね。

 

1.土地の性格をイメージする

これはもう適当でいいと思います。標高が高ければ「○○山*1」、港町なら「○○津*2」、神社があるなら「○○宮*3」、新興住宅地なら「○○が丘*4」「○○台*5」みたいなパターンを作っておくと楽です。また、災害地名の文字を調べてみるのもいいかもしれません。「窪(久保)」がつく土地は低地の場合が多く、「稲」や「原」は元々農地であった場合が多いです。「梅」は埋立地の可能性がある地名に使われやすい文字*6です。三陸なんかは特にそういう地名が多いので参考になるかもしれません。適当な漢字付けておけばそれっぽくなるのもいいね。

また、土地の質を示すキーワードを含めるのもおすすめです。「ホト」は「低地」*7を、「クテ」は湿地*8を、「ムレ」は山地*9を「シナ」は段丘*10、「ハニ」は「粘土質」*11、「ナヰ」は「地震*12を示します。もちろん漢字や読みは多少変ることもありますが、なんとなーく痕跡が分かれば大丈夫。全て転訛で片付けられます。

それを使うとちょっとネタが増えるんじゃないでしょうか。もちろん日本領の架空の島みたいな世界だったらめっちゃ有用ですが、異世界の日本っぽい国だと設定すると少し変わってきます。何故ならば、神道という宗教が存在しなければ「○○宮」は使い道が限られてきますし、「○○神宮駅」「神宮前駅」も使いづらくなります*13。仏教がなければ「○○寺」という地名はもちろん、「○阿弥」「○網」などの仏様に由来する地名*14も使いにくいですね。統治制度がずっと現代風だとしたら「○○宮*15」どころか「国府○○」とか「○○府」も使いづらくなってきます。内陸だったら海に関する地名*16も消えてきますし。コメを食う文化がなければ田んぼはいらない訳ですから「新田*17」とかもなくなってきて結構苦しくなるので、世界観はまだしももっと現実的なところは日本と合わせておくとやりやすいと思います。ただ、これらを基軸にした別の言い方を作っておけば応用は散々効くと思います*18

 

 

2.文化をイメージする

東京都中央区の「銀座」はかつて「銀貨の製造所や、その同業者組合の拠点」があったのでこの名がついています。神奈川県鎌倉市の「材木座」も銀が材木に変わっただけで、似たような由来であると言われています。このような「かつて行われていた文化」を地名にするのも面白いと思います。ただ、地名って意外とダークな由来も多くて、栃木県日光市の「戦場ヶ原」は男体山の神と赤城山の神が戦った地であり、近くの「赤沼」は戦いが激しすぎて、流血が溜まって沼地になったという伝承から名付けられました。新潟県糸魚川市の「親不知」「子不知」は「親子が波にさらわれて離れ離れになってしまう」という話から*19です。京都なんかはもっと怖いのが多いですね。千本通*20や西院*21、縄手通り*22、紫野*23とかね。まあそれも文化ですので、地名の由来として似たようなブラックな話題やストーリーを含ませるのも楽しいはずです。

ちょっと変わってくるかもしれませんが、奥羽本線難読駅名に「及位(のぞき)」*24という駅がありますが、それは女甑山での修験道に由来を持っています。女甑山の険しい崖の途中には女陰のごとき「赤穴」があり、険しい断崖の端から宙づりになり崖の赤穴をのぞき込む修行を行った者は高い位に及んだ。この修験道の修行がこの地名の由来と言われています。「のぞき」をして「位」に「及」ぶから「及位」と書いて「のぞき」と読むんですね。こういうこじつけバックグラウンドを作ってしまえば、適当に漢字を組み合わせた適当な地名も説得力のある地名になります。

 

3.古文や漢文をイメージする

かつて常陸国陸奥国の境界には「勿来の関」が置かれていました。なぜこれが「なこそ」と読むのかと言うと、終助詞「な-そ」で形作られる「禁止」の構文に「来る」の未然形「来(こ)」を宛てがったものです*25。「勿」は「禁止」の意味を作っているので、「来る」+「勿(禁止)」で「勿来(なこそ)」*26。つまり「勿来」の意味は「来るな」、即ち蝦夷に対して越えてはならない関所であると訴えているのです。また、古文構文では「え-ず」「え-じ」の「え」は「得」に、「ず」「じ」が打消にそれぞれなるので、「不得○(動詞を意味する漢字)」で「(機会が無くて)不可能」の意味を作ることが出来ます。例を挙げると、「不得已」は訓読が「やむをえず」になります。地名とするには少々厳しいかもしれませんが、めちゃくちゃでっかい関所があるところをを「不得越(えこえず)」とするのはありかもしれません。また、漢文の白文の並びにして現代読みさせるのも意外な地名ができあがりそうです。「使む」の構文とかは使えますね。「〜させる」という意味ですので、昔は刑罰を与えるところだったというストーリーをつくり、「役人に罪人を叩かせた場所」という地名をこの構文で作ると「使吏打」。漢文で読むと「りをしてうたしむ」になります。字面だけをそのまま読んだら「しりうち」「しりだ」とか読めます。まあ無理矢理感が否めないので個人的には漢文構文はお勧めしませんが、相当ネタ切れしてたらありだと思います。

 

4.和歌をイメージする

世界観が日本と同一だからできることにはなりますが、勝手に歌枕にしてしまうのも地名では使えます。例えば「飛鳥(あすか)」「春日(かすが)」です。「あすか」は古くから万葉仮名で書くなら「明日香」でした。しかし、この地を和歌で読む時に、枕詞として「飛ぶ鳥の」が使われるようになりました。枕詞のルールとしてはご存知の通り、「ある枕詞の後ろは必ず一定の言葉が来る」わけです。以下の例は平安和歌の枕詞ですが、「ちはやぶる(千早振る)」は「神」だし、「たらちねの(垂乳根の)」は「母」だし、「くさまくら(草枕)」は「旅」です。つまり、「千早」と書いて「かみ」と読んだり、逆に「神」と書いて「ちはや」と読んでも説得力はある程度出来るわけです。現実世界で「神」を「ちはや」と読むパターンは聞いたことがありませんが、名付け方としては面白そうです。

「春日」は「はるひ」と読んで「霞」にかかる枕詞でしたが、後に「滓鹿(かすが)」または「霞処(かずみが)」との枕詞によって「春日」が「かすが」とよまれるようになりました。要するに誰かが勝手に変えちゃったんですね。このように、強引な解釈で枕詞を勝手に作っちゃうのも鏤めると意外な地名が出来上がると思います。

 

5.外来語をイメージする

さっきの「ムレ」やアイヌ語由来の「別」と被りますが、外来語を勝手に拾ってきて、漢字の読みだけ貰うのも量産のコツです。例えば「جبل」というアラビア語を英字表記すると「jabal」になり、「じゃばる」と読みます。意味は「山」。じゃあ山岳地名に「じゃばる」という地名をつけて、適当に漢字をあてれば手っ取り早いですね。「蛇張」とかいい感じじゃないですかね?こういうのも量産に向いているかと言われれば「うーん...」ですが、レパートリーは格段に増えると思います。文節でやっちゃうとなかなか長くなりますが...

 

6.勝手に神話を作る

「空から神様が落ちてきた」とか、「戦ってたら剣が折れて刺さった」とか、「伝説の英雄のお墓がある」とかなんか適当に物語を作ってみてください。あっという間に地名の完成です。「神子落」「剣刺」「御陵」で十分ですね。

 

7.適当な古代豪族をでっちあげる

長野県の「安曇野(あずみの)」、山形県の「飽海郡(あくみ-ぐん)」「あつみ温泉(-おんせん)」、愛知県の「渥美半島(あつみ-はんとう)」ってこれ全部古代豪族の「阿曇氏(あずみ-うじ)」が由来という説があります。豪族の氏をとって訛らせて適当に漢字を宛てるだけでもかなりの数が作れると思います。しかも「そこにいた」という事実だけ適当に考えればいいので楽すぎ。

 

ということでクソ記事でした。本文中の○○には好きな感じを当てればいいと思います。架空地名を作る時はこういうこじつけの由来が先行したほうが経験上やりやすいと思います。あとは、「殺」「病」「死」「罪」「犯」なんかの漢字は使わないのがおすすめ。重箱読み湯桶読みの地名も控えめがいいと思います*27*28。どうですか?なかなか地名って奥が深いと思いませんか?

 

というわけで語ることも無くなってきたのでここいらで筆を置かせて頂きます!架空地名にお困りの時は良ければ参考にしてみてくださいね。

*1:野辺山 矢祭山

*2:大津 国府津

*3:大宮 三宮

*4:ひばりヶ丘 自由が丘

*5:青葉台 国府

*6:大阪の「梅田」が有名。「埋め」に通じています。

*7:女性器を表す古語の「ほと」から。神奈川県横浜市保土ヶ谷や埼玉県川口市の鳩ヶ谷はこれ由来。

*8:愛知県の長久手市が有名。濃尾地方は湿地が多く、中山道六十九次にも「細久手宿」「大湫宿」(どちらも岐阜県瑞浪市)の宿場がありました。

*9:古代朝鮮語で「山」「丘」を意味する「more」から。古くからの集落の場合(群れ)もあります。

*10:長野県立科町の「蓼科」同じく坂城町が属する「埴科」、同千曲市の「更級」など。山が階段上になっていたり、川沿いの河岸段丘の土地を意味します。

*11:前述の「埴科」に加え、埼玉県羽生市の「羽生」や東京都北区の「赤羽」も似たような由来とされています。

*12:例は見た事ありませんが、古語で地震は「なゐ」といいました。

*13:何らかの神を信じる別の宗教があれば話は別

*14:阿弥陀如来に由来している場合がある。

*15:宮殿の意味の方。

*16:「浜」とか「灘」とか「岬」とか

*17:「しんでん」でも「にった」でもどっちでも。

*18:現実にある似たような地名の代表例は北海道の「○○別」という地名。「別」はアイヌ語の「ペッ」という音を表していて、「川」という意味です。

*19:冬場は特に波の荒い日本海のすぐ近くの断崖を伝うように歩くような道だった。

*20:死体を葬った場所で、無数の卒塔婆が立っていた

*21:「さい」。地獄にある「賽の河原」から。これより西は魔界であると考えられていた。

*22:死刑囚が斬首場である三条河原へ連行される時に通るから

*23:風葬地であったため、腐った紫色の血で染まっていた

*24:現:山形県真室川町

*25:本来は連用形が入るのだが、カ変とサ変の同士は未然形が入る。

*26:逆に言えば「勿」の字を使っていて「な-そ」や「○○な」という読みになっていないのは再考の必要があると思います。また、この字は基本的に頭にくっつきますので、そこを忘れると違和感の強い地名になります。

*27:「門田」は「かどた」「もんでん」だと綺麗に聞こえるのに「かどでん」は綺麗に聞こえないようなイメージ。

*28:静岡県の「菊川(重箱読み)」みたいな綺麗に聞こえて意味が通る湯桶重箱は気にしなくていいと思いますが。